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人工知能と非認知能力

2024.07.05

AI (Artificial Intelligent=人工知能) という言葉に最初にお目にかかったのは1985年だ。何のことやらさっぱりわからなかった。
1985年に入社した会社で最初に取り組んだのは、そのAIに関連する技術だった。カメラと画像処理コンピューターを使い目視検査の自動化のシステムを構築する仕事だった。
検査員が目視で製品の合否判定をするのだがこれをコンピューターにさせるのである。当時はこれをAIと言っていた。機械が人の知能に代わって合否判定をする、という点では確かに人工知能と言えるが、いまではただの自動化検査である。とは言え40年近く前である。あれから40年が経ちチェスや将棋の世界ではプロをも駆逐するAIが現れ、最近突如として現れたChatGPTにおいてはこちらからの質問に対して的確な回答を出し政治経済等の分野まだ問題解決をあたかもするような文字通りの人工知能にまでに進化している。

ところで2000年ごろから米国で始まったSTEM教育がある。STEMとはScience+Technology+Engineering+Mathematicsの頭文字を取った造語で科学・技術・工学・数学に特化した教育である。そしてSTEM職種とは科学的な知識や技術を活用して問題を解決したり、新しい技術や製品を開発したりする職業群を包括する。20年以上前、雇用主と教育者が、雇用主の変化する要求とアメリカ人労働者の知識、技能、能力との間に見られる断絶に取り組み始めたため、『技能格差』という言葉が全米の辞書に載るようになった。この問題は非常に重大であると考えられており、景気が悪いときでも、景気が良いときでも、有能な労働者が不足しているために何百万もの仕事が埋まっていないと主張する人もいる。
このギャップを埋める方法を模索する中で、多くの専門家、教育者、雇用主は、STEM職種の資格取得者と大卒者を増やすことに焦点を当ててきた。全米知事協会、全米科学アカデミー、米国科学振興協会、全米科学委員会などの組織から出された複数の報告書は、STEM教育を拡大・改善することが、国家経済の将来にとって不可欠であると訴えている。」(i)

ちなみに具体的なSTEM職種とは;
<科学分野>
生物学者、化学者、物理学者、天文学者、地球科学者、環境科学者
<技術分野>
プログラマー、ソフトウェアエンジニア、データベース管理者、システムアナリスト、ウェブデベロッパー、ネットワークエンジニア
<工学分野>
機械工学者、電気工学者、ソフトウェア工学者、化学工学者、土木工学者、バイオメディカルエンジニア
<数学分野>
数学者、統計学者、データアナリスト、金融数学者、応用数学者などである。

しかし米労働統計局による労働市場動向ではSTEM職が全労働人口に占める割合は小さく2015年の統計によるとわずか6.2%であった。さらにSTEMの雇用は流動性が高く、テクノロジーの進捗に伴い柔軟性、倫理的な態度、社会的スキルなどの能力を必要とする職業がむしろますます重要性を増している。テクノロジー主導で高度に自動化された経済においては、逆説的ではあるが、最も人間らしい特性こそが最も重要になることのようだ。
これらの能力をテストやIQで測る認知能力に対して非認知能力という。

さて、冒頭で説明した突如として現れたChatGTPをはじめとする現代のAIプラットフォームは「市場における技術的能力と非認知的能力のバランスに関して、これらのテクノロジーが方程式をどのように変える可能性があるかという問題を提起している。」(ii)

IBM Institute for Business Valueのレポートでは「非認知能力の重要性が再確認され、人間と機械の共生的なパートナーシップを中心に仕事が構築される『拡張された労働力の時代』への道筋が描かれている。」(ii)

つまりAIプラットフォームの出現に伴い非認知能力が重要だと言っている。テストで100点取っても世の中ではもはや通用しませんよ、という時代に移り変わっているのだ。
米国ではこのことに気が付きはじめ今後は教育も変わっていくことであろう。翻って日本の教育現場は未だに;
🎵テストで100点取らへんと〜立派な人にはなりまへん〜🎵 (1969唄岡林信康)
この唄は1969年のレコーディングである。54年も前からテストで100点を取る教育がなされていた証拠だ。100点を取るための教育なんて何の役にも立たない時代がやって来ると同時にテストやIQでは測ることのできない非認知能力のある人間が台頭するのである。そのためには自分で考え自分で行動し自分で回答を出す教育がいいと思う。特に園児や児童にはそのような教育が必須であると考える。江戸時代にあった寺子屋教育の再現を望みたい。

前述の突如としてあらわれたChatGPT等のAIテクノロジーにより今後なくなるであろう職種がリストアップされ、動画で配信されている。これらを見ては右往左往しこれから先を不安に感じる人がいることだろう。すでにパニックに陥っている人もいるのではないだろうか?
しかしむしろAIを使いこなすことによって個人の重要性が増すと考えるべきである。人はより抽象的な仕事、例えば他人とのコミュニケーションや問題解決を身につける必要性がAIを使えば使うほど高まってくるに違いない。
AIの移行は、雇用者と労働者に大きな移行コストを課すことになるだろう。IBMによると調査対象の経営幹部は今後3年以内だけでも労働力の約40%を再スキルアップする必要があると予測している。AIや関連テクノロジーは多くの人々に影響を与えるだろうがそれを置き去りにする人ははるかに少ないだろう: エグゼクティブの平均87%がAIによって職務が代替されるのではなく、拡張されると予想している。マーケティングとカスタマーサービスでは75%、調達、リスク・コンプライアンス、財務では少なくとも90%である。」

このようにIBMによればAIの出現によって職務が縮小されるのではなくむしろ拡張されると予測しているのである。
しかし職種によってはプライオリティの低くなる職種もあり、AIの出現により労働市場の構造が変化することは歪めない。

下記のIBM Institute for Business Valueのグラフを見ると労働市場において20年前には脚光を浴びたSTEM能力は最下位に位置づけられ、時間管理および優先順位付け能力者がトップに躍り出ている。

IBM Institute for Business Value, 2023

(上の表の説明)
題名:新しい能力パラダイム
労働者に求められる最も重要な能力

42% 時間管理能力と優先順位付け能力
40% チーム環境で効果的に働く能力
38% 効果的なコミュニケーション能力
38% 柔軟性、機敏性、変化への適応力
35% ビジネス感覚を備えた分析能力
33% 倫理観と誠実さ
33% 業界・職種特有のスキル
32% 読み書きおよび数学の能力
32% 外国語
31% イノベーションと創造性の能力
31% 基本的なコンピューターおよびソフトウェア応用能力
28% STEM分野の能力

STEM能力が不要なのではなくいままでのように重要視されなくなっただけで、依然として科学、技術、工学、数学は最重要であるし、イノベーションや創造性能力も必要だ。労働市場では限られた職種においては最重要な分野であることは変わりない。しかしより人間的なアナログな仕事がAIの時代には重要視される、というレポートである。STEM能力と非認知能力を兼ね備えたバランスのある人財の育成が必要になる。
AIを馬に例えるならば、AIに乗って手綱を引き自分の意思通りに馬を走らせることが出来る人間になるのか、それとも馬に引きずられてどこへ行くのかも知れずの人生を送るのか。

 

参考文献

(i) American Enterprise Institute Nov 14, 2018

https://www.aei.org/research-products/report/stem-without-fruit-how-noncognitive-skills-improve-workforce-outcomes/

(ii) American Enterprise Institute August 31, 2023/10/03

https://www.aei.org/workforce-development/the-future-of-work-augmented-not-automated/

 

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